第17章 灯籠
「もうテスト終わってるぞ」
「いて」
思い切り頭を叩かれて目を覚ました。
冨岡くんだった。
「ふぇ?」
「答案用紙。さっさとよこせ。」
私はハッとして体を起こした。
そうだ、テストの時間だったんだ。
用紙を確認すると、それは一番得意な英語のテスト。もうすでに解き終えていた。
答案用紙は一番後ろの人が回収することになっていて、私の列は冨岡くんが一番後ろなので彼が集めているのだ。
「…ごめん」
私は用紙を渡した。
…寝ていたのか。テスト中に寝るなんて、最悪だ。来ちゃいけないタイミングってこういうことか…!!!
もう一人の私と話すときはやはり寝てしまうらしい。それに、会いたいときに会えるわけじゃない。向こう側の私と好きに会えないから、会うことができる一回一回のチャンスが貴重なんだ。
それより、会話の内容だ。あと数ヵ月で私は消える。消えて、しまう。そんなの嫌だ。認めない。どうしたらあのガラスの向こうから私を連れ出せるんだろう。
どうしよう、どうしたら…。
「おい」
「え、何?」
前の席の実弥に声をかけられた。
「大丈夫か」
「あ、うん、寝ちゃってた」
私は苦笑した。
「具合悪いのか」
「そんなんじゃないよ」
「そうか」
学校で話しかけてくるなんて珍しい。
でも嬉しくて、私はついにやついてしまいそうになるのだ。
そうこうしているうちに、回答用紙を回収し終えた試験監督の教師が私たちに指示をだす。
「これにて期末試験は終了だ。皆、良いお年を。」
それを聞いて、部活を除いてしまえば次に登校するのは年明けだということに気づいた。
あぁ、一年終わっちゃうんだな。
私は他人事のように思った。