第2章 成長
いつもの朝。
仕事に出かけるパパと一緒に家を出て、学校に向かって歩いていた。
歩いている道の端には、チューリップやパンジーなど華やかな色の花を植えた植木鉢が並んでいて、もう春だね、なんて話しながら歩いていると、ふと見た路地裏に座る人影があった。
その人は、肌が私より黒くて、白い髪で、噂に聞くイシュバール人ではないか。
立ち止まって見ていると、パパも足を止めた。
彼も私に気づいたのか、顔を上げた時に目が合う。
青じゃない、真っ赤な綺麗な目だった。そしてその顔には、目と同じ赤が伝っている。
「どうしたんだ?」
「あの人、怪我してるよ」
路地裏に入って彼に近づき、今日持っていたハンカチを差し出す。
「これ、まだ使ってないから。だから、怪我してる所に使ってください」
彼は恐る恐るといったように私のハンカチを受け取った。お気に入りだったけど、怪我してる人がいたんだから、仕方ないよね。
「ありが、とう」
「どういたしまして。ちゃんと病院いってね」
「…ああ、そうするよ。ハンカチありがとう。お嬢ちゃんは学校だろう?いってらっしゃい」
「うん、いってきます」
パパに呼ばれて道に戻ると、パパは私に自分のハンカチを貸してくれた。
「無いと困るだろ?可愛くはないが、今日は我慢してくれ」
「パパも困っちゃうでしょ?」
「パパは二枚持ってるから大丈夫。ほら」
「うん、ありがとう」
「今度、新しいハンカチを買いに行こうか」
「うん!」
パパからハンカチを受け取って、遅れちゃう、と道を急いだ。
その日、ママには危ない人だったらどうするの、とちょっぴり怒られたが、直ぐにえらかったわね、と褒められた。