第5章 甘味屋での甘い休息
「そこの娘、光秀殿のことを聞いて回っているのか?」
「はい、そうですが……?」
声をかけられた方を見ると、身なりのいい武士が三人薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「見ない顔だが、最近城で働き始めた女中か? あの見掛け倒しの優男っぷりにやられたクチだな」
「見る目のない娘だ。あんな男の何がいいというんだ」
「そうそう、あいつは狐の化身だぞ」
(狐の化身……?)
意味がわからないでいる私を囲み、彼らは一際大きな笑い声を上げた。
「はは、暗躍がお得意の光秀殿に相応しい呼び名だ。信長様に歯向かう大名と通じているとの噂もある」
「そうなんですか……?」
聞き返しながら、さほど驚いていない自分に気づく。
(確かに歴史上、光秀さんは信長様を裏切った諜反人……。根拠のない話じゃないかもしれない)