第11章 約束(織田信長)
この戦乱蔓延る時代にやってきてちょうど1年の今日私は彼の元に輿入れします────
1年前の今日、不意に現れたワームホールにより1人の女が戦国時代へと飛ばされた。それは彼女がいた時代よりも500年前、誰もが平和を望み戦に明け暮れていた時代。ひょんな事からあの第六天魔王と恐れられた織田信長を本能寺から救い出し。
最初は信長に弄ばれていた彼女だったが本来の信長は本当はとても温かく不器用な人と知り。いつしか『こいびと』になっていた。
その関係になって半年、いつもの様に信長の待つ天守へと頼華は向かっていた。
「信長様、喜んでくれるかな…?」
と彼女の手には小さい小袋が。昼間にたまたま市を歩いていた時、よく信長の元を訪れている南蛮商と出会し、手に入れたそれ─金平糖。信長の好物であるのだが秀吉の完全管理につき信長は好きな時にはそれを食べられないのを頼華は知っていた。
秀吉には信長に金平糖を渡す許しは得ており、頼華が管理するのであれば、と秀吉も許していたのだが。
「失礼します、信長様」
障子を開ける前に声をかけると中から入れ、と信長の声がする。
「頼華、待っていたぞ」
信長はといえば1人で月見酒をしている様子だった。
「待たせてしまってごめんなさい」
頼華がそう言うと信長は御猪口から手を離し頼華の頬に手をやって唇を親指でツイとなぞる。
それは2人だけの合図で。信長曰く申し訳ないと思うのなら口付けをしろ、ということらしい。頼華は少し照れ臭そうに笑って信長に触れるだけの口付けをする。
「ほぉ………貴様分かってきたではないか」
ふ、と信長が目を細めて笑う。
「遅くなったのはですね、」
と頼華は懐から小袋を取り出した。
「…金平糖か?」
「大当たりです!」
「よく秀吉が許したな」
あぁ、それなんですがね、と先程の事を信長に伝えると
「まぁ、そうだな。頼華、貴様が管理すれば良いのだ」
何れ夫婦(めおと)になるのだから。
と信長は言う。余りにもストレートなプロポーズとも読めるその言葉に頼華は思わず目を見開く。
「何故そんなに驚いている?」
「あ、えっと…」
信長はふ、と笑うと頼華を自らの元へ抱き寄せた。