第1章 ただそばに居たかった(灰崎祥吾)
「っ…お前もやるようになったじゃん、ダイキ」
「あ?…知らね。」
あとでさつきにどやされんなと思いつつさてこれからどうしたものか。頼華がウィンターカップを見に来てはいるとは聞いていたもののどこにいるかわからない。帝光時代、灰崎がいた頃はあんなに笑顔だったはずの彼女はいつしか1人でいることを好むようになっていた。
「……え?」
ふと振り返るとそこには彼女の姿。部活以外で見るのは久しぶりだなと思いつつ改めて見る彼女はとても儚げに見えた。
「よぉ、頼華。やっぱ来てたか。」
「えっと……なんで、」
なんで灰崎くんと大輝くんがいるの、と不安そうな表情の彼女の顔が少し歪んで見えた。
「… 頼華、」
「っ…」
「久しぶり、だな」
久しぶりに聞く灰崎の声。髪型は変わってしまってはいるけれど確かにそれはずっと求めていた彼で。言いたいことは山ほどあった。
けれどずっと会いたかった人を目の前にすると人間言葉が出なくなるもので。どのくらいだろうか、その沈黙を破ったのは誰でもない青峰だった。
「…んじゃ、俺帰るわー」
「えっ」
「…灰崎、」
「なんだよ、ダイキ」
「……もう泣かすなよ」
また学校でな頼華、と颯爽と去っていく青峰の姿にオロオロする彼女。あぁ、俺は、ずっとこいつを守りたくて、傷つけたくなくて離れたのに。結局はそれが逆にこいつを傷つけてきたのかと理解した。
「……」
「… 頼華、」
「…たよ、」
「は?」
「灰崎くん、かっこよかった」
苦しそうに笑うこいつの表情を見てられなくて俺は腕の中に抱きしめていた。
「は、灰崎くん…?」
「…バカだなぁ、お前」
「えっ?」
「いや、バカなのは俺だな」
もう、絶対離してやらねぇから、好きだ、そう告げてやれば彼女は幸せそうに笑った。
ただそばに居たかった
───それは俺の方だった
(てか、灰崎くん、ってやめろよ昔みたいに呼べ)
(じゃあ…祥吾くん…?)
(おぉ、それでいい。てか、桐皇にいんの?)
(うん、大輝くんとさつきちゃんとねマネージャーだよ)
(チッ……福田総合に来いよ)
(えっ…いいの?)
(言ったろ、もう離さねぇから)
彼女が福田総合に転校することになるのは
また別のお話で──
end