第21章 あなたに(跡部景吾)
「な、んで景吾くんが…?」
「十夜さんに頼んだんだ、俺が迎えに行くと」
俺じゃ不満か?と聞く彼に、そんな事ない!嬉しいよ、そう伝えれば優しい微笑みが返ってきた。
「え、ここって…」
「あぁ、俺の家だ」
あの日のことが頭にフラッシュバックしたけれど、景吾くんが分かっているかのようにぎゅ、と強く手を握られて大丈夫だと自分に言い聞かせた。
「話があるんだ、頼華。聞いてくれるか?」
こくりと頷いたのを確認した景吾くんは、私の手を取って中庭を進んでいく。
「え……わぁ…!!」
中庭の片隅に青い薔薇たちが意気揚々と鎮座していた。
「気に入ったか?」
「勿論だよ!これって珍しい花だよね?」
「あぁ、どうしてもお前にこれを見せたくて」
「なぁ、頼華」
「なぁに?」
「高校を卒業したら、俺と結婚してくれ」
「…!」
景吾くんがそう言ってポケットから取り出した小さな青色の箱。
中に入っていたのは、ふたつ並んだシルバーリング。
「これは、婚約ってことでつけて欲しいんだ。」
「…え?」
「もう、絶対お前を傷付けない。ずっとそばに居てくれるよな?」
「っ…」
こんな幸せ、考えもしなかった。
紫咲組の娘として産まれてからこの15年間。
苦しかった。寂しかった。
でも景吾くんと出会って、世界は変わった。
こんなにも優しいひとの隣にいてもいいのかと考えたこともあった。
だけど、今はっきり分かる。
私も、景吾くんじゃなきゃ駄目なのだ。
「返事、は?」
「あ、あたしでよかったら…!」
「お前がいいんだ、頼華」
印を刻むように左手の薬指で輝くそれは、本当に明るい未来への小さな兆し。
喝采の祝福をあなたに
(薬指に嵌められたリングの上から)
(約束の口付けを)
(良かった良かった…!)
(え…お、お父さん!?それに十夜!)
(俺が呼んだんだ。あとな、)
(初めまして、頼華さん)
(可愛らしい子じゃないの〜)
(俺の父と母だ)
(えぇ!??)
(おい景吾、困惑してるぞ)
(サプライズってやつだな)
正式に跡部家と紫咲家の婚約者となったふたり。
祝福の鐘の音も小さく響いていた。
end