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忍ぶれど色に出でにけりわが恋は物や思ふと人の問ふまで

第6章 猿芝居



――真葛の仕事はここからであった。
守られるべき町娘という立場を利用し、巧みに格さん助さんの邪魔をしていく、ほんの少しの動きで集中を乱させ、死角を作る。
しかしそれにしても役人ごときに後れを取る護衛の二人ではない、真葛はそのまま乱戦に紛れて光圀の近くに行っておじいちゃんをたすけなくてはならないという正義感に駆られた少女のフリにもっていく――

それを目印に、影から光圀の命を狙う銃口を向ける者がいる。
真葛はそれを知っている―そのためにまた上手く誘導をし、気取られぬように狙いをつけやすくさせようというのだ。

九郎太は短銃の筒の先を真葛越しに光圀の頭へと向ける。
真葛の支援も上手く、対象は此方に気付く様子もない、このままであれば手負いは確実―……しかし、引き金が引けない。

当時の短銃は仕組みは火縄銃のそれ、狙撃手の腕など関係なく命中率などあってないようなもの、どこかに当たれば大けがに繋がるだろう、大体が膿んでしまってそれっきりだ。
頭を狙撃して脳を吹き飛ばせるなど端から思っていない。

だからこそ、真葛が邪魔なのだ。
当たってもおかしくない、どころか頭を吹き飛ばしかねないその不安がこの好機をおいてなお、引き金を引けない。
女一人に判断が鈍る己が許せるはずもない、ここで死ぬ女であればそれまでか――…火種は弾をはじき出す―…。

ガァン、という発砲音が響き、叫び声が響く。乱戦をする光圀が一行と役人たちは思わず動きを止めた。流れ弾をうけた役人の一人が地面をのたうち回り、いずれこと切れた。
その近くにいたのは助さんで、真葛、光圀とはだいぶ角度が違う。真葛はそこから視線を影にずらせば短銃を下ろす九郎太と目が合う。引け、とその目が言っている、
真葛はこくりと頷いた。

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