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水際のテラル

第1章 レイクエムは流れない




「はるい」

舌ったらずな泣きそうな声が意識を呼び戻す。
目を開けると"父"の顔が見えた。

あれ、私の父親はもうとっくに居ないのに、と頭のどこかで声がして
すぐにそんなわけがないと否定をする。
だって目の前にいるのは僕の父親だ。

身体が嫌に冷えてるのと、むち打ちのような痛みに、自分が訓練に使うプールに落ちたのだと気づく。
ずぶ濡れの僕を抱き上げてくれている父は、こちらが起きたのを見ると、僅かに表情を緩めた。
もう一度聞こえた声に目を向けると、離れたところで母に抱かれた片割れが、こちらに手を伸ばしていた。

「いるみ」

手を伸ばしたいけど、いやに怠くて動けない。

「ハルイ、目が覚めて早速だが、それを留めないと死ぬぞ」

「え、」

身体から湯気のような"もや"が流れ出ていた。

流れていくのと比例するように身体が重くなっていくのでこれは本当にヤバイと察する。
どうすればいいのかと父の顔を見るも、楽しそうに眺めるだけなので多分暫くは助けてくれない。
まずは落ち着くことにする
溺れた時でも慌てるのが一番良くないことだったはずだ。

「ほぅ…」

とくりとくりと鼓動が落ち着くのに合わせて、もやの流れも落ち着きだす。
落ち着いたのはいいが留めるにはどうすればいいんだろう。

「血の巡りを意識しろ。同じようにオーラも巡回させるんだ」

言われた通りに巡るイメージを持つ
というかこれオーラっていうの?

「よし、もう大丈夫だろう」

ある程度滑らかに循環するようになった所で父はそう言って腕から降ろしてくれた。
同じように母から抜け出した弟が此方に駆け寄ってくる。
ぎゅうぎゅうと抱き締められるのに応えようとして、出来なかった。

触れることが怖い。
[僕]だけの時にはなかった感覚。
それは元の[私]の性質だ。

これは前世とでも呼ぶようなモノなのだろうか。
怖い怖いと心が叫ぶ。
誰にも会わずに生きていたいと渇望に似たものが心に渦巻く。

思い出された前世の[私]は誰とも関わらないように生きていた。

でも、だからこそ[私]は殺されたんだ。
人に関わるのが下手くそだったから。

意識をするともう駄目だった。
全く動けそうにない。
だから笑え、笑え、好意があるんだと示さないと
"また殺される"

「いるみ、だいじょーぶだよ」

優しい甘い声はどこか他人事のように響いた。

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