第3章 生きる為には食べよ
「ほら、起きて」
目の前の人が私に手のひらを差し出す。
本来なら差し出された手に自分の手を重ねるのが礼儀なのかもしれないけど…
この人が誰なのかも分からない中、その手を受けとる事はできず、自らの力で起き上がった。
笑みを浮かべていたその人が怪訝そうな表情に変わる。
「はぁ…」とあからさまなため息をつき、「可哀想に…」と呟いた。
「…か、わい…そう?」
親に売られて可哀想という事だろうか?
身寄りがない可哀想な子をこの本丸で買い受けたという事なんだろうか?
「あぁ、ごめんね。君、幾つ?」
哀れむというよりは悲しげな表情で、その人が問う。
「じゅ…17です」
「…そうか。僕は燭台切光忠よろしくね。お粥なら食べられるかな?」
正直、あまり食欲は無いけれど…
「食べたくないって顔に出てるよ。でも、昨日から食べてないでしょ?政府も万屋も何も食べさせてくれなかったでしょ?食事は大切だよ。僕はね、主から『食べ物が身体を作るんだ』って『食事は生きる根本だ』って教わったんだ。そうでしょ?」
問いかけにコクりと頷いた。
「だから食べなきゃだめだよ」
燭台切様にそう言われては断る事は出来なくて、再び首を縦に振る。
「待ってて。今、持ってくるからね」
立ち上がった燭台切様の背中は、すごく広く大きく見えた。