第7章 漆ノ型. 気付く ~宇髄天元・冨岡義勇の場合~
ゴトリ。
重い音と共に落ちたのは父親の首。
しかしその身体は崩れることは無かった。
崩れそうなその身体を、朝露を纏った紫陽花が包み込む。
瞬間、目もくらむ閃光と共に父親の体も首も紫陽花も消え去った。
「逃したか。露柱の力、甚だうるわしいものだな。まあいい、復活までにはそれなりの時間がかかるだろう。次は殺す。」
そう言い残して去っていく鬼舞辻無惨。
情景はここで途切れた。
バチンッ....
再び大きな破裂音が宇髄の頭の中に響けば、
宇髄の思考は、既に見慣れた蝶屋敷の一室へと戻っていた。
ドクンドクンと心臓が嫌な音を立てる。
きっと時間としては一瞬のことなのだろう。
しかし、何十年もの年月を駆け抜けたかのように身体は疲労を訴え、
額にはじっとりと汗が浮かぶ。
宇髄と同じく、呆然と一点を見つめる煉獄。
「煉獄、お前も見たか」
「ああ、何だあれは。本当に、鬼舞辻無惨なのか、それにあれが本当なら彼女の父親はもう.....」
困惑する2人に、胡蝶が言う。
「先程刹那さんとは別の隊士を治療していて同じような事が起こったんです。どうやら今回の鬼の血気術は鬼が死んだ後も有効で、かけられた本人の一番幸せな記憶と、辛い記憶を傍に居る人間に見せるようで....」
胡蝶の言葉に宇髄は息を飲んだ。
「じゃあ、今俺と煉獄が見た記憶は.....」
「お二人が何を見たかは分かりませんが、全て現実に起こったことです。」