第7章 漆ノ型. 気付く ~宇髄天元・冨岡義勇の場合~
「煉獄さん!宇髄さん!今すぐここから出てください!!!」
音が弾けた瞬間宇髄が己の異変に気付くのと、胡蝶が焦った様子で部屋に飛び込んでくるのは同時だった。
しかし、その声はもう宇髄に届いてはいない。
宇髄とほぼ同時に動きが止まった煉獄に関しても、同じことが言えるだろう。
音が弾けた刹那、波のように宇髄の頭の中に広がる情景。
河原を歩く少女と男。
幼いが顔立ちからして少女は、刹那だと推測できる。
幸せそうな刹那の手を引くのは長身の男だ。
少しだけ波打つ肩ほどまでの髪、その隙間から覗く紅い目。
薄い唇や通った鼻筋は男の宇髄からしても美しい。
『父様、あれを見せて』
そう呟いた刹那の声で、その男が刹那の父だと知る。
男は愛しげに刹那の頭を撫で、綻ぶように笑った。
「刹那は本当に縁壱が好きだなあ。」
そう言って男が空中を撫でれば映し出された赤毛の男。
耳には花札のような飾りを付けて、こちらを見ている。
『父様の1番のお友達だもの、それに、とっても綺麗』
「貴方、刹那夕餉の時間ですよ。」
『母様!』
そんな2人を遠くから呼ぶ女。
きっとあれが元露柱なのだろう。
穏やかな、家族の日常。
このままこの光景を暫く眺めたい。
そう思う宇髄の心情と反比例して場面は変わる。
ノイズのように乱れた目の前の光景は夜へと変わった。
宇髄が次に目にしたのは、
惨劇。