第7章 漆ノ型. 気付く ~宇髄天元・冨岡義勇の場合~
杏寿郎side
胸騒ぎがしていた。
言いようのない不安。
「兄上、刹那さんはまだお戻りにならないのですか?」
襖の奥から千寿郎が問いかける。
千寿郎も不安なのだろう。
少し遅くなったが今日は暁天少女が家に来たお祝いをしようと、朝から意気込んでいたのだ無理もない。
そんな千寿郎の様子を見て、暁天少女も早く帰ると約束していた。
「簡単な任務だと、言っていたのだが...」
「あ、兄上?」
「大丈夫だ千寿郎!きっと任務が長引いてしまっているんだろう!!明日は非番だと言っていたし、祝いは明日にしよう!千寿郎も早く寝なさい!!」
「わ、分かりました。お休みなさい兄上。」
声でわかるほどに落ち込んでいる千寿郎に胸が痛む。
暁天少女が家に来てから、千寿郎は前より随分と明るくなった。
よく懐いているのだろう、暁天少女と話している時の千寿郎は今までの寂しさを埋めるかのように幸せそうだ。
暁天少女もそんな千寿郎の気持ちがわかるのか、良くしてくれている。
だからこそ解せない。
そんな彼女が何の連絡も無く千寿郎との約束を破るだろうか。
「何か、あったのか....」
嫌な予感というのは当たるもので、俺の不安は現実のものとなる。
カタリと音を立てて開いた襖に期待を込めて目をやれば、宇髄が切羽詰まった顔で立っていた。
「宇髄...!どうしたんだこんな明け方に...」
相当な速さでここまで来たのだろう。
宇髄には珍しく少し息が上がっている。
「煉獄、悪いな急に。急いで準備してくれ、暁天が斬られた。」
血の気が引くとはこの事だろう。
何故。
何があった。
お前と一緒の任務ではなかったのか。
彼女は無事なのか。
聞きたいことは山程あったが、ぐっと堪えて立ち上がる。
「行こう。直ぐに支度する。」
今はただ、暁天少女の無事を祈って。