第7章 漆ノ型. 気付く ~宇髄天元・冨岡義勇の場合~
忠告などすぐに破られると思っていた宇髄は素直に感心したし、この時までは刹那が一体素手でどこまでやれるか見てやろうなんてなんて楽観的に考えていた。
しかし、
宇髄の考えは甘かった。
あと一歩で鬼の首が斬れる。
皆の気が緩んだその瞬間、鬼は最後の悪あがきをした。
宇髄の嫁の1人、須磨の四肢の自由を血気術で奪い攻撃を飛ばしたのだ。
(間に合わない)
宇髄は鬼の首を狙い振りかぶっているまさにその瞬間であったからここから体制を変えるのは難しい。
もし変えられたとしても守りの為とはいえ攻撃を繰り出せば、須磨は無傷では済まないだろう。
コンマ1秒。
迷っていた宇髄は次の瞬間信じられないものを見た。
刹那が須磨と鬼の間に入り攻撃を全て受けた瞬間を。
これには流石の宇髄も狼狽えた。
刹那が須磨を守ったという事実と、自分の命が危険になると分かっていながら尚、
宇髄の言いつけを守り刀を抜かなかった刹那に。
鬼の首を斬り駆け寄れば、傍で泣く須磨を宥める刹那の姿。
最小限の言葉で、酷く優しく須磨に語りかける姿に
自分の投げかけた言葉の残酷さと、過ちを再確認させられたのもこの時。
今更謝罪する事もできずその場を隠と嫁に任せ、
そのまま刹那を抱き抱え全速力で蝶屋敷へと向かったのだ。
「くそっ....俺は判断を間違えた....」
柄にも無くそんな事を呟いてしまう所から、宇髄の焦りが伺える。
(死ぬんじゃねえぞ....)
刹那に言わねばならぬ事は山程あるが、
まずは自分のやるべき事をやらねばと更に速度を上げる。
全速力で走る宇髄の姿はそのまますぐに、森の中へと溶け込んだ。