第5章 伍ノ型. 束の間の休息 ~甘露寺蜜璃・胡蝶しのぶの場合~
刹那がやっと乗り気になってきたのを感じたのか、甘露寺の目はこれまで以上に輝き、
「じゃ、じゃあ!ちょっと袖を通してみない?!」
食い気味に着物を広げる。
「お嬢さんたちお目が高いね!それはうちの新作で着物と西洋のドレスってやつを融合したやつなんだ!」
そう店の奥から店主が声を大にして叫んだ。
店主の言う通り上半身が黒地の着物であるそれは、下半身にかけて着物の半身が黒のプリーツになっている。
帯は結ぶのではなくそのまま取り付けてあるらしく、帯上の紐は赤紐の結び切り。
所々に金糸の刺繍がある。
着物と違い体の線にピッタリとつくそれは、刹那の体型も相まって何とも妖艶だ。
『綺麗』
思わず溜息混じりに言ってしまう。
それ程に見事な品だった。
「とても似合っていますよ?」
そう言って裾を整えてくれる胡蝶の横で、甘露寺が震えている。
『みつり?似合わなかったかしら...』
分かりやすく肩を落とした刹那に、甘露寺がぶんぶんと首を横に振る。
それはもう、もげるんじゃないかという位の勢いで。
「素敵!とっても綺麗だわ!しのぶちゃん!刹那ちゃん!これにしましょう!店主さん!これ買います!!!」
この場にいる誰よりも興奮した様子の甘露寺が胡蝶を引っ張りお会計をするのは一瞬だった。
『あ!ちょ、待って!』
止める刹那の声を振り切って会計をする甘露寺。
「待たない!とても綺麗だもの!煉獄さんにも見せてあげなきゃ!絶対!!」
『何で煉獄様が出てくるの?!ちょっと!みつり!』
珍しく焦り気味の刹那を置いて、甘露寺は突き進む。
甘露寺の贈り物という名の着せ替えはその後もまだまだ続いたのは言うまでもない。