第4章 肆ノ型. 共同護衛 ~不死川実弥・伊黒小芭内の場合~
そんな貴恵の心情を察してか刹那は優しく貴恵の手を握る。
『お嬢さん。辛いでしょうね、苦しいでしょう。それでも貴方は進まなければなりません。決断しなければなりません。私達に、あの鬼を斬る許しを下さいませ。』
「あ、わ、私...」
それでも口篭る貴恵に不死川と伊黒が耐えられなかった。
「選択肢など与える必要はないだろう。鬼は滅殺。それ以外無い。」
「おい女ァ、同情して仲良しごっこしたいだけなら今すぐ帰れ。俺が鬼を斬る。」
2人が抜刀しようとした刹那、刀に添えた手が押さえられた。
それは紛れもなく刹那の手で。
力任せに引き抜こうとしてもどうしても抜けない刀に、不死川と伊黒は困惑する。
傍目で見ていた煉獄は、初めて刹那と会った時の事を思い出す。
自分も抜刀を止められたからこそ、今伊黒や不死川の考えている事が手に取るように分かる。
困惑したままの伊黒と不死川ににこりと微笑み、
『待て、も出来ないのですか?』
そう言う。
不思議と圧力のあるその言葉は、猛っていた2人の熱を一気に冷ます。
刀から手が離れたのを確認し、2人から貴恵へと向き直った刹那は再度貴恵に問う。
「さあ、どうしますかお嬢さん。ここで惨めに鬼に食われるか、自分の足で一歩踏み出すか。選んでくださいませ。」
2度目の問い掛けを耳に、貴恵は婚約者との思い出を反芻した。
その日々はどれも幸せで、世間知らずな自分もこれが愛だと信じて疑わなかった。
けれど婚約者は、いや、婚約者であったはずの鬼は言ったのだ。
ハッキリと。
(彼は私の事など愛していなかった。私を餌として育てたかっただけ....)
事実を一気に突きつけられてどうしていいのかわからなかった。
否、今も分からない。
けれど、目の前に居る美しい鬼狩りの女性は決断しろと言うのだ。
(自分の足で....一歩踏み出す)
このままではいけない。
情けない。
刹那の言葉が貴恵を奮い立たせる。
震えた掌で両頬をパンと叩いて深呼吸した。
しっかりと目を開いて刹那と目を合わせる。
「鬼狩り様。私の婚約者を、あの鬼を斬ってください!!!」