第4章 肆ノ型. 共同護衛 ~不死川実弥・伊黒小芭内の場合~
「そう僕は婚約者。優しい貴恵なら、僕の事を殺そうだなんて思わないよね?」
終始ニコニコと笑う鬼は少しずつ間合いを詰めるように歩く。
婚約者という単語を聞いて不死川の頭の中にはひとつの考えが浮かんだ。
元々この任務に駆り出されたのは、鬼の被害が多くそのどれもに予告状が送られてきているからだった。
そして狙われた女は結婚間近の女ばかり。
不死川はなぜそんなに結婚間近の女を把握できるのかずっと疑問だった。
女が食われた後同じように婚約者も消えていたから、夫婦を狙ったものだろうと思っていたがどうやら違ったらしい。
点と点は繋がる。
この鬼は自分が婚約者となり、結婚間近という環境を作りあげた上で獲物を食っていたのだ。
「胸糞わりィ話だなァ」
日輪刀を握る手に力が入る。
どうやら伊黒や煉獄もそれに気づいたらしく、怖い表情を浮かべている。
それに反して未だ穏やかな表情を浮かべる刹那は、鬼に語りかけた。
『ああ、わかりました。ここ何件かの事件は全部貴方の仕業だったのですね。そんなに美味しいですか?結婚間近の女の方は。』
「美味しいよ。幸せの絶頂にいる女は肉が甘くなるんだ。この顔の時もよかったなあ、この時も甘くて弾力があって...」
グルグル変わっていく鬼の顔がにたりと歪み、肉の味を思い出しているのか恍惚の表情を浮かべる。
興奮した鬼の口の端からにちゃりと音を立てヨダレが零れた。
「馬鹿な女達だよ本当に、食われるとわかった瞬間のあの裏切られたって顔...堪らなかったねええ。こっちはお前の事なんかちっとも愛しちゃいないのにさああああ。」
言って刹那と貴恵に鬼は飛び掛る。
間一髪の所で刹那が貴恵を抱え、部屋の中から庭へと逃げでた。
婚約者の本性を見て混乱したままの貴恵。
自分のせいで刹那達が鬼を斬りあぐねているのは、馬鹿な彼女でもわかっている。
それでも決断できない自分がもどかしくて、涙が止まらないのだ。