第12章 拾弐ノ型.焦がれる
去り際千寿郎が言っていた。
【兄上、炭治郎さんが刹那さんへの言葉は兄上自身で伝えてほしいと言っていましたが、何のことでしょうか?】
どうやら炭治郎は、煉獄の刹那への想いだけは伝えずにいてくれたようだ。
生きて自分で伝えろという事だろう。
(竈門少年には頭が上がらないな...)
少しだけ苦笑しつつ、後輩の気遣いに心の中で礼を言う。
元々自分で伝えたいと思っていた。
遺言で想いを伝えられても、刹那にとっては酷だろうと。
死を覚悟したあの瞬間でさえそう考えていたのだから、煉獄は相当刹那に惚れているらしい。
刹那にはたして好いた男がいるのか、
いるとしたらそれは自身なのか否か。
煉獄はそれすら知らない。
しかし、行き場の無い程溢れたこの愛情は
最早自身の中だけで留めておくには大きくなりすぎた。
(俺も腹を括らねば。)
深く深呼吸をして気合を入れる。
「刹那、君に聞いて欲しい事がある。」
煉獄は刹那の長い髪を指で梳きながら、落ち着いた声でそう言った。
身動ぎして漸く自身の肩から顔を上げた刹那の顔をしっかりと見つめて、続ける。
置いていく筈だった自分の想いを、言葉に乗せて。
「俺は...君が好きだ。仲間という意味ではなく、一人の女性として。君を愛している。」
2人だけの空間に刹那の息を飲む音が聞こえ、少しだけ蒸気したその柔らかな頬に手を添える。
指で撫でれば、擽ったそうに目を細めて
それすら愛しくて堪らない。
「あの日目を閉じるその瞬間まで君の事を考えていた。出来ることなら...もしもう一度煉獄杏寿郎という生を受けることが出来るなら、君の傍で生きたいと思ったからだ。」
言葉を紡ぐごとに零れる刹那の涙を拭いながら、煉獄は微笑む。
「もし君も俺と同じ気持ちなら、俺を君の傍においてくれないか。これから先一生、君の隣でもっと沢山の君を知りたいという俺の我儘を受け入れて欲しい。」
それだけ言って口を閉じる。
思いのほか緊張しているのか、たらりと首筋に汗が垂れた。
優しく頬を撫でながら刹那の返事を待つがなかなか開かれる事の無いその口に、心臓は嫌な音を立て、
段々と不安が募ってくる。