第12章 拾弐ノ型.焦がれる
胸が痛くなるような愛しさと、苦しさ。
「彼女達も、俺を想っていた時こんな気分だったのだろうか。」
呟いた言葉は、誰に聞かれることも無く溶けた。
と、
ふいに廊下の方に人の気配を感じる。
気配は1つだけ。
探り慣れたその気配に煉獄の口角がゆるりとあがり、少しして障子がカラリと開いた。
「無事に戻ったか...おかえり。」
敷居を隔てた先には任務から帰ってきたばかりの刹那の姿があった。
珍しく朱嘉達の姿は無く、気配も感じないからきっとまだ他の任務にあたっているのだろう。
これから彼女に伝える内容を考えると、煉獄にとっては願ったり叶ったりな状況だ。
ほっとする煉獄とは対照的に、
煉獄が帰っていた事を知らない刹那は一瞬目を見開き、その綺麗な顔を歪ませる。
一歩、また一歩と煉獄へ近付き、
「おいで。」
広げられた彼の腕の中へ吸い込まれるように飛び込んだ。
瞬間濡れる肩に刹那が泣いていると知り、
「最近知ったが、君は存外涙脆いな...頼むから泣かないでくれ、俺は君の涙に弱いんだ。」
そう優しく刹那の背中を撫でながら煉獄が言う。
少しばかり軽くなった刹那の体を抱き抱え、2人の隙間を埋めるように抱く腕に力を込めた。
煉獄に抱きしめられながら、
『貴方にだけよ...こんなにみっともない姿を見せるのは...』
聞こえるか聞こえないかの弱々しい声で呟いた刹那に胸が締め付けられる。
どうして俺にだけ、
それはどういう意味なんだ、
期待してもいいのか。
思う事は山程あるが、
今己の腕の中に収まる刹那をちらりと見ながら煉獄は考える。