第12章 拾弐ノ型.焦がれる
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「む...」
あれから千寿郎は今までの分もというように力一杯泣き続け、スッキリとした顔で夕餉の準備へと向かってしまった。
急な運動を胡蝶に禁じられている煉獄は、鍛錬する事も出来ず自然と暇を持て余す。
普段じっとしている事があまり無い為やはりそわそわと落ち着かず、褒められたものではないと分かっていたが刹那の部屋で彼女の帰りを待つ事にして、
窓辺に座ったところまでは覚えている。
が、処方された薬の副作用なのか、襲ってきた睡魔に抗えず今まで眠りこけていたらしい。
明るかった外は、既に日が沈み静けさだけが広がっている。
(そろそろ帰ってくるだろうか...)
そう思いつつ、千寿郎が掛けてくれたであろう羽織に袖を通す。
すっかり冷えてしまった自身の四肢を温めつつ何気なく部屋を見渡し、刹那の物が増えた母の部屋に笑みが零れた。
そこかしこにある刹那の名残が煉獄にとってはどれも愛しくて、無性に刹那に会いたくなってしまう。
「よもや、まさか俺がこんな感情を抱く日が来ようとは...」
そう言って頭をかく。
一応良家の長男であるし、美丈夫の部類に入る煉獄だ。
引く手数多、見合い話も何度か受けている。
それでも刹那と出会い今日に至るまで、そのような感情を誰かに抱く事などなかった。
半ば無理矢理先方から押し付けられる形で見合い相手に会った時も、女隊士に想いを告げられた時も、
自身にその気が無い以上期待させては悪いと、毎度当たり障りなく断っていたのだが...
今や煉獄の心の中は刹那で埋め尽くされている。
出来る事なら、刹那もそうであって欲しいとすら思ってしまう程に。