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彼に食ってかかられる

第38章 Dear,my…


「──遅くなっちゃったな。」


用事を終えて帰路につき始めた宗次郎だっだが、懐中時計にて時刻を確認すると思いのほか予定時刻を過ぎてしまっていた。
その上夜もとうに更けてしまっているため、帰路への道は星明かりに頼ることになるのだが少し距離があり過ぎる──だけど。



「…せっかく叶さんが誘ってくれたんだから。間に合わないわけにはいきませんよ。」



急ぎ気味に走り出す。

駆けながら頭の中にずっと浮かんでいるのは叶のことだった。
任務を負えて思考を占めるものが他になくなったためか、それとも他にも理由があるのか。意識したところで振り払うことなど到底できなくて、宗次郎は自嘲的な笑みを浮かべていた。



(僕、本当に叶さんのこと……



大切にしてあげないとな。でも思えばあまり恋人らしいこと、してあげられてないなぁ…


恋人らしいこと…叶さんが喜んでくれること…)



迷いながらも急ぎ足を進める宗次郎だったが、その表情は次第に固い決心を誓っているように真剣なものに変わっていく。
けれど集中している宗次郎自身はそんなことには意識を向けることもなく、一歩一歩と斬りつけるように歩を刻み出していくのだった。


雲に隠れていた月が次第に姿を現していく。月明かりにより微かに明るくなった辺りを視界に入れながら、宗次郎の脚は速さを募らせていく。

──もう少し、いや、もっと急がないと。



愛しい想いをただただ胸に秘めながら。移り変わり行く景色を眺めて心の中で呟いた。



(僕がこんな風になれるなんてなぁ…


ありがとう、叶さん…)









「ただいま…」


誰も彼もが寝静まっていてしまっていることは承知の上だが、訪れた安堵感と共に思わず呟いてしまう。

アジトの入口を潜りながら、もう一度空を見上げる。まだ高い位置に昇っている月が見えていたが、雲の陰に隠れようとしていた。


(よかった…夜が明けない内に帰ることができて。)



──数刻ほど眠れば大丈夫。これで叶さんとの約束は果たすことができる。

そして、知らず知らず笑みを漏らしていたことに気付いた。
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