第22章 ロマンティック?
いつも通りに過ごしていた、そんな日だった。
叶さんがそう言い出したのは。
「素っ気ない。」
「は?」
「素っ気ない!」
「何が言いたいんですか。叫びたいだけならよそに行ってください。」
「…私たち、ムードがなさ過ぎると思わない?」
「???」
この人の口から、ムードなんて単語…
矛盾とは、こういう時に使う言葉なんだろうなぁ。
「…あからさまに不思議がらない!」
「だって…何に影響されたんです?」
「よくぞ聞いてくれました!」
力説しながら差し出されたのは。
「何ですか?これ。」
「DVDよ、映画の!」
「…は?」
映画?
「うん!ロマンティックなんだよね~!私もこんな風に想われてみたい!甘い台詞囁かれたい~!」
「落ち着いてください。何をそんな、藪から棒に…」
「キュンキュンしたい。青春したーい。」
「勝手に突っ走らないでくださいよ。」
手にしてパッケージを眺めてみると…叶さんの言うキュンキュンがこれなのだろうか。流行ってるのかな、こういうの。
「…何がお望みなんですか?」
「え!やってくれるの?」
食い気味に身を乗り出される。
キラキラと輝く目。
「…まあ、僕の不利益にならなければ考えてみないこともないですけど…」
「いよぉしっ!うへへへっ。」
「…人並みに笑えないんですか、まったく。ムードも何も叶さんが自らぶち壊してるんでしょ…」
「ちっちゃいこと気にするのよくないよ!」
「まあ…観てみるくらいならいいですよ?」
「やりーぃ!さ、これから観よう♪」
品の善し悪しは別として無邪気に喜ぶ様に、まあたまには付き合わされてもいいか、と思いきや。
叶さんは大量のDVDを抱えて持ってきた。
「…ちょっと待ってください。これ一枚だけじゃないんですか?」
「そそー♪これ全部、私のイチ押しコレクション達でーす♪」
「…僕が馬鹿だった…」
* * * * *
「…」
「ね?ね?いいでしょう?キュンキュンするでしょ?ね、あんなの憧れる!」
「…嫌ですよ。」
「ええーっ!?」
「……」