第48章 時には貴女の唇から
「叶さん…」
「宗次郎…//」
二人きりの場所で。
向かい合いながら、宗次郎は叶の背中に腕を回し。叶はその胸の中で彼を見上げていた。
――自分をまっすぐ見下ろす宗次郎の瞳に叶は思わず赤面する。
まだ緊張を隠しきれない、とでもいうように揺れる眼差しだけれど彼に応えるように目を合わせた。
やがて近付く宗次郎の面構に叶の心臓はこれでもかとばかりに脈打ち強張る。
けれど彼との――宗次郎との唇の距離が埋まるにつれて、観念するように彼の着物にぎゅっとしがみ付き、目を閉じるのであった。
しかし。
「…?」
いつもなら…
けれども、ぴたりと動きを止めた様子の宗次郎に気付き、叶はそっと目を見開いた。
「宗次郎…?」
「叶さん、今思ったんですけど。」
目の前でじっとこちらを見据える宗次郎に思わず瞬きを繰り返して、思わず。
「…それ今言わなくちゃいけないこと…?」
「大事なことですから。」
「う、うん…?」
なんだろう、と首を傾げる叶に宗次郎は真剣な面持ちで言葉を続けた。
「…叶さんからキスしてくださいよ。」
「は、はあ!?//」
「いつも僕からでしょ?たまにはいいじゃないですか。」
“あの時や…あ、あの時も”
“そうですよ、あの時も”と続けて具体的に告げる宗次郎。
「ど…どっちからでもいいじゃん…!(待って、恥ずかしい…///)」
「そうかもしれませんけど…」
不服なのか、宗次郎は言葉を続ける。けれど少し声を低く落ち着いたものにして。
「でも僕だけがしたいみたいで。」
「!そんなことないよ!」
「…たまには、叶さんからしてもらって…何て言えばいいのかな、叶さんに求められてみたい…//」
そう告げて、そうっと叶の様子を窺い見る目は少し照れたように甘いもので。その瞳に見つめられる。
まるで「ダメ?」と言わんばかりの駄目押し。
「叶さんから、キスしてもらえませんか?」
「…ま、まぁ…そういうことなら…私からするね…?//」
「ふふ、ちょろいなぁ。」
ぱっと明るくなった声音。そして宗次郎はにこにこと微笑む
「え???…あっ、はめられた…!」