第1章 怪物との境界線
もちろん血液も体液であるので腹は満たせる。
だがあれはちょっとグロい、いや鬼の私が言うのもなんなんだけど、血で腹を満たすのは気分的に嫌なので体液、基本的には男の精液で腹を満たしているのだ。
それもどうなの、と思うかもしれないが別に害を成してないから許して欲しい。
喰べないし、しかも抜いてあげて、相手は極楽こちらも満腹、あぁなんて合理的なんだろう。
むしろ褒めて欲しいくらいだ。
『さて…っと』
目の前で裸のまま大の字になって気を失っている男を見る。
このまま放置するのが楽だが、襲われたのか!と騒ぎ立てられても困るのでとりあえずそれを回避する為に近くに転がっている彼の衣服に手を伸ばす。
着せてやるつもりはないが、上にかけてあげとけばいいだろうと安易な考えからだが、まったく鬼のする事ではないなと心の中で苦笑する。
手に取った服をさぁ奴の上にと思って広げてピタっと動きが止まる。
その服を眺めて僅か数秒間の停止。
『まじか…』
そしてようやく絞り出した言葉がコレだ。
仕方がない、何故なら広げた布地には堂々と【滅】の文字が書かれていたのだ。
いや、待て、落ち着け。
きっと見間違いだ、そう思いくしゃくしゃにした服を再び広げてみる。
そこには…【滅】の文字がやはりあった。
『ああぁぁっ…』
関わりたくない、関わらないと決めていたのにまさかのまさかだ。
いや、まず気付けよ、私も此奴も。
確かに夜だったが、鬼殺隊は鼻や耳、そういった五感や気配で鬼を見つけると聞いた。
なのに何故ホイホイと私に着いてきたのだっ…そう頭を抱える。
私はいつもの様に男に声をかけ、そして行為に及んだだけだ。
何も変わらない、いつもと同じだった。
なのに、まさか鬼殺隊の隊士だったとは…。
面倒事になる前に手を打たなければ、そう思い手に持っている服を寝ている男に投げ飛ばす。
ちょっとした怒りを込めて。