第2章 残酷
鎹鴉からの伝令を受けて、奔走すること早一日。
町から離れた雪山の中に建っていた一軒家は、
血で染まっていた。
つまり──、間に合わなかったのだ。
惨殺と呼ぶにふさわしい。
鬼の仕業だろう。
いい加減に見慣れた光景だが、義勇は渋い顔をしていた。
その理由はいくつか思い当たるが、それより今は気になるものがある。
「足跡だ」
義勇が、ぽつりと呟いた。
いつだって言葉足らずの義勇の意図を汲むと、この足跡を追いかける、ということだろう。
「そうだね」
と、頷く。
家の前には、私たちとは別の新しい足跡があった。
一度、家まで伸びており、それから引き返した跡がある。
そして、引き返した足跡は、元来た足跡よりも少しだけ深く雪に沈んでいた。
これは、行きよりも帰りが、体重が重たくなったことを示す。
火事場泥棒という可能性もあるが、それにしては家の中が荒らされたり、何か持ち出された様子もなく綺麗だった。
綺麗、というのは語弊があるけれども。
さて、懸念しているのは、襲われた人間に息があった場合で、足跡の人物が抱えて近くの町まで連れて行っていることだ。
そもそも息があった場合、すでに人間でない可能性が高い。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか」
そう言った私に義勇は淡々と告げる。
「出るなら鬼だろう」
そういう意味では、ないのだけれども。
「"人だけ"だといいね」
「ああ」
そう言って、私たちは、ひた走る。