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FFⅨ Hi Betty! (Long)

第8章  make up


屋敷に帰ってから、私はずっと庭を散策していた。
気づけば日は落ち、空には星が浮かんでいた。
ここに来て数時間は経っているように思うが、私はまだ部屋に戻る気にはなれなかった。
どんなに歩き回っても、立ち止まってみても、もやもやした何かがしつこく胸に残っているのだ。
どうしてあんなに気が立ったのか、今となってはわからない。
わからないけれど、彼にはまだ会いたくなかった。
ふらふらと歩き回るのに飽きた私は薔薇のドームに囲われたベンチに腰掛け、薔薇と夜空を眺めていた。

「こんなところにいたのかい?」

あまり聞きたくないような、でもどこかで待っていた声だった。

「うん、涼しいよ。」
「だろうね。夕飯はまだなんだろう?」
「いらない。」

クジャの溜息が聞こえ、ベンチが少し軋んだ。
彼が隣に座ったのだろう。
私は依然として空に視線を向けていた。
今日は三日月だった。
か細い月は半分が雲に覆われていた。

「…おもちゃ感覚で見てるとでも?」

彼は私に尋ねた。
仄暗い月明かりによく馴染む静かな口調だった。

「わからない。そうだとしても、それに対して怒ったりしないわ。」

逆に言うと、そうじゃないのであれば一体私の何に関心があるのか疑問で仕方なかった。
私が彼にとって利益になる要素など全く思い浮かびやしないというのに。

「怒ってくれた方が助かるんだけれどねぇ。」
「…変なの。」

歩いている時は気にならなかったが、こうして座っていると肌寒さを感じる。

「さすがにこの時間は冷えるね。」
「うん、夜だもん。」

話すことが特になければ、注意の向き先は同じらしい。
私が言葉を口にすれば、胸に残る刺々しい何かが声に混じって彼を刺してしまうかもしれない。
月にかかる雲の動きを観察しながら、そんなことを心配していた。

ふと後ろを振り返れば、彼が私を見つめていた。
月の光を含んだ柔らかい瞳だった。
私は何度か瞬きをするが、その間も彼の視線が逸らされることはなかった。

「なに?」

けして敵意があるわけではない。
ただ、私に思いついたのがこの言葉なだけだった。

「やっぱり綺麗だ、って思ってたんだ。」

クジャはあどけない少年のようにどこか得意げに微笑んだ。
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