第7章 tit for tat
「あっ…」
「じゃあ、僕には何を思ってるのか教えてもらいたいところだよ。」
「えっと、それは…」
完全に失敗だった。
これでは、私がクジャに対しては特別な感情を抱いている言っているようなものだった。
他に似たパターンがないという意味で特別といえば特別なのだが、伝わり方には問題があった。
「それに、さっきの彼には抱きついておいて、僕には何もなしかい?」
クジャは不満気に続ける。
ここでさっきの彼、もといアルテミスが出てくるのが不思議だった。
何故、比べる必要があるのだろうか。
それに対して、一つ、推測が生まれるのはすぐだった。
彼の考えていることは、思いの外単純なことなのかもしれない。
-クジャの機嫌がよくないのは恐らく…
「………妬きもち?」
「さぁね。」
クジャは馬鹿馬鹿しいとでも言いたげに、冷やかに視線を外した。
「ふぅん。…私のこと、脱がせたかったし、抱きしめられたかったってこと?」
少し面白かった。
彼が私に執着があるとは思っていないが、手元のものが他に取られるのに嫌悪を感じるのはおかしいことではないと思う。
そうとわかりつつも、私にとっては珍しい状況で普段彼にやられていることをやり返してみたかったのだ。
「君って人は……もう少しオブラートに包んだ言い回しをできないのかな。…まぁいいや。それで…あぁ、なんだかまどろっこしいな。」
彼が何を思い浮かべているのかは私には想像ができなかったが、さぞ面倒に思っているということは表情から理解ができた。
「僕は君のことを何だと思ってると思う?」
前にも聞いたような言葉だった。
「………居候?」
「そういう類の答えが返ってくると思ったよ。じゃあ、仮に居候だとして、何で僕がそんなものの面倒を見なきゃならないんだい?」
クジャの元に来てから、私が一番疑問に思っていることだった。
彼は私に何をさせたいのだろうか。
少なからず、彼が主従関係を求めていないことは明白だった。
「それ、すごく知りたい。」
「教えてあげてもいいけど、条件があるんだ。」
時折、彼の甘い声色と艶やかな口元に不穏な空気を感じることがある。
今がまさにそうだった。
「……何?」
「昨日の夜のことは覚えているかい?」