第7章 tit for tat
店を出てからのことだった。
「一つ聞きたいことがあるんだ。」
「なに?」
クジャが聞きたいことを想像するのは簡単だった。
「なんで、着付けを男にお願いしたんだい?」
案の定、だ。
「コルセットがきつくて具合が悪かったんだ。でも、女の人に言っても直してもらえなかったの。みんなクジャと話していたかったのね。」
特に嘘をつく必要もないので、私はあったことを正直に話した。
「僕に相談すればよかっただろう?それくらいの機転が利かないとでも思ったかい?」
クジャは虫の居所がよくないのか、いつもより少し語気が強いように思えた。
確かに、私の振る舞いは彼を立てているとは言えなかった。
「そんなこと思ってないわ。あの中に割って入っていくのが気が引けただけ。」
私は彼の問いかけを否定した。
けして彼のことを信用していないわけではなく、本当に声をかけずらかっただけなのだ。
彼は諦めたように目を伏せた。
「…悪かったね、気がつかなくて。当日は何かあったら必ず言うんだ。君の警戒心は紙のように薄っぺらいから、少し心配だよ。」
「わかった。…ごめん。」
クジャは後ろめたさを感じたのか、さっきとは打って変わって憂た面持ちを見せる。
紙のようにとは言われたものだったが、下手に口出しはしなかった。
「それと、さっきみたいなことは他にしてくれるなよ。」
「……どれのこと?」
思い当たる節としてはいくつかあったが、どれを指しているのかがはっきりしなかった。
挑発的に思われないかという心配はあったが、私は聞き返した。
「不用意に甘えた顔をするなってことだよ。」
甘えた顔。ドレスを決めた時のことだろうか。
もしそうなのだとしたら、正しくは不用意ではなく、故意になるのだが。
「…あー、ああいうのは柄じゃないから大丈夫だと思う。」
「けっこうしてるから言ってるんだ。」
そうだろうか。
私は直近の記憶を思い返してみる。
「なんていうか、変な雰囲気になるの、クジャくらいよ?他の人にはこれといって何も思わないもの。」
誤解されるような節は、クジャとのやり取り以外では一切ない。
基本的に私は恋とか何とかには無縁だ。
だから困っているのだ。
そして、口に出してから何かがおかしいことに気づく。