第4章 cheating
シェリー、酒は飲めるかい?」
罰の悪さを感じている私に、クジャは何の脈絡もなく尋ねた。
「お酒?…甘いのなら。」
クジャは怒ってはいないようなので、少し安心した。
「…なら、丁度いいのがある。散々待たされたんだ。少しくらい付き合ってもらうよ。」
-結局、待ってたんじゃない。
出かけた言葉を飲み込み、私は酒を取りに行こうとするクジャに続いてビリヤードルームを出た。
本当は私が取りに行くべきだが、アルコールについては詳しくないので、この場は彼に甘んじることにした。
***
クジャと私は、ビリヤードルームに戻り革製のソファに並んで座っていた。
目の前のガラスのローテーブルの上には、ワイングラスが二つと、クリーム色のラベルのついた、白ワインのボトルが氷水に浸けられていた。
私はワイングラスを手に取り、クジャが甘いからと勧めるそれを半信半疑で口に含んだ。
「本当に甘い。」
彼の言葉は本当だった。
「だから言ったじゃないか。飲めるかい?」
「うん、おいしい。」
彼の選んだワインは、葡萄の果実をそのまま酒にしたかのように甘かった。
「先に言っておくけれど、酔った女を部屋まで送り届けてあげるような親切心は持ち合わせていないんだ。届け先が僕の部屋なら別だけどね。何はともあれ、気をつけなよ。」
「……覚えとく。」
飲み過ぎに気をつけるように言っているのだと思うが、どうして彼の口からは、変な意識を持たせるような言葉がつらつらと出てくるのか。
冗談に返すつもりであしらえば、いい頻度で心臓に悪い返り討ちが待っているのだから困ったものだった。
これに関しての最適解は未だに得られていない。
ただ、彼のおかげで恋に落ちる女性の気持ちはなんとなく理解できるようになった。
もしかすると私自身も恋をしていることになるのかもしれないが、とりあえずは脳の錯覚として片付けている。
彼の容姿が綺麗すぎるのが原因の大部分なのだと思う。
「それはそうと、来週までにドレスを準備しないといけないね。シェリー、舞踏会に参加したことは?」
「ブラネ様に付き添ったことなら。」
「なるほどね、充分だよ。ブラネも勿体ないことをしたね。君を社交界でお披露目させてしまえば、都合のいいこともあっただろうに。」