第23章 はじめての
※現パロ
「…蛍。」
そっと、消え入りそうな声。それはいつもの彼とはまるで違っていて。とある決心が付いた、というように改まった様子の声色でもあった。
その証とでも言えばいいのだろうか。こちらへ向けられる彼の眼差しは真剣そのもので。そのような視線を投げかけられた蛍はどう振る舞えばいいのか、どのような言葉を発すればいいのか、瞬く間に見失ってしまっていた。
──宗次郎の家にお呼ばれして。少し前から恋人としてのお付き合いを始めた彼との間柄を思うと、“その予感”がするのを止められたかといえば、やはり嘘で。
(デートの時に手を繋ぐことは何度かしたことがあるけれど、もしかして今日…)
そんな淡い期待を抱いていた。
けれどそんな素振りなんて、今この空間でも決して宗次郎は滲ませやしない──笑顔で最近の出来事を話したり、紅茶を淹れてくれたり…蛍の持ってきたお菓子を美味しそうに味わっていたり──終始そのような様子の彼を前に、蛍の心の中はふわふわと落ち着きなく揺れていた。
でも。
「蛍…」
「……//」
今の彼は、まるで自分を求めているかのよう。今まで見たことのないその表情に、蛍の感情はみるみるうちに掻き乱されていく。
愛しい人がこのような雰囲気を醸し出して、そしてこのような面持ちで自分の名前を囁いてくれるだけで。ただそれだけで、心の中の何かがじわりじわりと高揚してくるだなんて。蛍は知らなかった。
まっすぐ射抜くように見つめられ、頬がかああと熱くなるのを感じる。
宗次郎は蛍の方へと静かに躙り寄って。
──決して追われているわけではないのだけれど、緊張で身動いで後ずさる。けれど彼のベッドが背中に触れたら、もうそれまで。逃げられないと悟った。
蛍の心の裡を知ってか知らずか──宗次郎はそっと、床に沿わされたままになっている蛍の手の甲に己の手を重ね合わせた。
「…いつか蛍と…こういうことしてみたいと思ってて。」
彼女の手をすり…と優しくなぞって、宗次郎は甘い語らいを静かに囁く。
熱を秘めて、でも蛍の気持ちを慮る理性でそれを押し留めて、まっすぐに蛍に問う。