第19章 いきるしあわせを知ったひと
「ほら!向こうで皆待ってるよ!今からお誕生日会するからね!」
「……」
「ほら、行こう?」
立ち尽くす僕の手を取って。こちらを見つめる彼女の瞳。
“ありがとうございます。でも…”
──心に仕舞い込んだ言葉。
“なぜ蛍さんがそんなに嬉しそうにしているんですか?何のために?”
それは蛍さんの前に吐き出すには躊躇われて。そうしているうちに、そのまま行き場をなくして消えていくようだった。まるで、蛍さんのくれた気持ちに包み込まれるように。
今まで、いつだって、思考は“一応、めでたいことなんだな”──そこ止まりだったんだけど。
そう悪いものではないと思う自分がいた。むしろ…
芽生えた暖かい気持ちに思わず戸惑ってしまう。けれど。
「蛍さん。」
「!」
「ありがとうございます。」
きゅ…と彼女の手を握り締めて。
どうかこの温もりが伝わるといい。そんなことを思っていた。
蛍さんははにかむように微笑んで、
「だって宗次郎のお祝いだもの!」
暖かな声音でそう告げて、手を握り返した。
自分自身が生きていること。
生まれたこと。
どうやら、そういったことを尊いという風には思えないでいたけれど。
「僕は生きていてよかったのかもしれない」と。少しそんな予感が胸を過ぎった。
「宗ちゃーん、早く早く!」
「宗次郎、ワイからもお祝いや!」
「鎌足さん、張さん。」
「ほら!坊や!蛍ったら坊やの為に四苦八苦しながら作ったのよこのケーキ!」
「ゆ、由美さん///」
「宗次郎殿、おめでとう。」
「和尚も一緒に手伝ってくれたんだから!」
「由美さん、安慈和尚。」
「宗次郎、私からはこれを。」
「──本かぁ。」
「本かぁ、とはなんだ。」
「冗談ですよ、ありがとうございます方治さん。」
「…さてと。ようやく主役が来たな。」
「志々雄さん。」
「めでたい日だな。」
「──それじゃあ宗次郎のお誕生日会を始めまーす!」
(…蛍さん。)
「宗次郎、おめでとう!」
「ありがとうございます。」
──何もかもが暖かいと感じた日。
(Wishing you many, many more happiness!)