第19章 いきるしあわせを知ったひと
宗次郎お誕生日。※年齢は満年齢表記です
『おまえも元服だな。元服の祝いだ。』
『志々雄さん、いいんですか?こんな立派な刀貰っちゃって。壊したりしたらどうしようかな。』
『人の元服祝いをなんだと思ってるんだテメエ。』
『坊や!今日お誕生日なのよね!』
『宗ちゃん!おめでとう!』
『ああ、そうらしいですね。ありがとうございます。由美さん、鎌足さん。』
『はいこれ!私達から!』
『あれ、いいんですか?』
『あんた、まだ十と五でしょう?もっと誇らしくしててもいいのよ?』
『?そういうものなんですか?』
──齢が一つ増えるだけ。
けれど普通は何やら、めでたい出来事なんだということは、これまでの周囲の反応から何となく理解していた。
生きていること。今まで生きてきたということ。
これからもそれを望まれるということ。
──それらを嬉しそうに称えられるというのは、どうやら有難いことなんだろうな。
そう思うようにはなったものの、何処か他人事のように捉えていた。
「宗次郎!お誕生日おめでとう!」
「…あ、蛍さん。」
「皆に教えてもらったんだ、今日で十六歳なんだね!おめでとう。」
そう朗らかに蛍さんは笑った。
まるで自分のことのように嬉しそうにしているものだから。
「……」
「…宗次郎?」
てっきり彼女に何か良いことがあったのかと錯覚を起こし、何を言われているか理解するのに少しだけ時間を要した。
「──ありがとうございます。でも。」
「?」
「…いえ、なんでもないです。」
「素敵な十六歳になるといいね!」
にこっと微笑んだ蛍さん。
その笑顔を見せられてしまうと、逡巡した疑問は咽の奥にしまわざるを得なかった。
僕は彼女の笑顔が好きだ。今の笑顔だって。
──その笑顔の蛍さんから伝えられた気持ちは、いつだって今日だって、何処までも精一杯で純粋なものなのだと感じたから。
「──ええ。」
思わず呟いて、微笑みを返していた。
蛍さんは少し照れたようにしながら言葉を続ける。
「…宗次郎に食べてもらおうと思って、ケーキを用意しました…!」
「え?」
「由美さん達に手伝ってもらって、頑張って作ったんだよ!」
「そうなんですか…」