第16章 背中を辿るあなたの指先
「っ、ふ…っ、!」
「あ。ここ?」
今度は親指で押され、息が詰まる。
「んっ!そこ、無理…っ!」
──背中に突きつけられる痛みから逃れようと蛍の身体は前に倒れるけれど、必然的に宗次郎の胸の中に迎え入れられているようにしか見えない。
息の上がる蛍を見下ろしながら、少し宗次郎は皆目する。
「…わ、この辺りすごく固いですよ?凝ってるんですね。」
「待っ…ううぅ…っ、いたぁ…!」
宗次郎曰く「凝ってるところ」を重点的に押され。でも逃げ場のない蛍は宗次郎に強くしがみついて耐えるしかできない。
またぐぐっと押されて思わず宗次郎の着物を握る手に力が加わる。
「あう…っ、い、痛い…っ!待って…」
「えっ、そんなに?」
若干驚いたような声を上げて彼女の顔をまじまじと見る宗次郎。
「でも、蛍の肩や背中かなり凝ってますよ?」
「…実は、最近なかなか疲れが取れてなくて…」
「そうですか…そういえば蛍、最近働き詰めでしたもんね。」
今度は優しく、なでなでと背中を滑っていく手のひら。
その優しい感覚にほっとして蛍は宗次郎の首元に擦り付くように身を寄せる。暖かい眼差しでこちらを見つめる宗次郎。
片方の手は頭をそっと撫で。何度か往復させていく。
「お疲れ様。蛍。」
「…宗次郎ほどじゃないけど、でも、ありがとう。」
顔を寄せると、頬に優しく触れる指先。
恥ずかしいけど嬉しくて笑みを浮かべると、そのまま首筋に宛がわれていく手のひら。暖かさに包まれる。
そして、肩に触れたかと思うと。再び息が詰まる。
「んうっ!?」
宗次郎の両の親指が肩の左右に食い込む。
ぐりぐり、と深く押されては、肩の肉を揉むようにされて。痛い。
「痛ぁ…!」
「ちゃんとほぐすので、我慢してくださいね。」
「もうちょっと優しくは…?」
「解消する方が優先です。」
にっこりと微笑まれて。
私は観念して宗次郎の胸元に顔を埋めるしかなかった。
やれやれいとしい
(軽くなった…!宗次郎、ありがとう。)
(よかったです。蛍もとっても可愛かったです。)
(…うん?)