第17章 こぼれ桜
※短め
宗次郎の傍らで、眼前の桜色の光景に胸を躍らせつつ──隣にいる彼の存在が何かと気になってしまう。
多分、今も彼は澄ました笑顔をして景色を眺めているんだろう。
──彼の方へ視線を向けたのだけれど。
宗次郎はまっすぐこちらを見つめていた。恐らく先程から、ずっと。
「…どうしたの?」
裏返りそうになる声を抑え、平静を装おうとするけれど。
「蛍さんを見ていたくて。」
しれっと穏やかに告げてくるものだから、心臓に悪い。
きっとこちらの一挙手一投足その瞳に映して収めているのだろう。笑顔を向けられたまま。
「…誰もいませんね。」
「えっ。」
少し低く、掠れるような声に囁かれて思わず胸が高鳴る。
そして意味ありげに笑みを向けられ、重なりそうなほどに顔を近付けられる。その瞳には優しさと、何かを促すかのような期待の匂いを宿していて。
まるで、抱擁する時のことを思い出させた。
固まった蛍に笑いかける。
「あ、何かやらしいこと想像したでしょう?」
「ち、違うよ…!」
「ほっぺが赤いんですけど。」
「…宗次郎の仕草がなんか…やらしかったから…!」
必死に言い訳をするけれど。
「それ、違うって言えてないですよ。」
「…………」
楽しそうに微笑まれる。
返す言葉がなくて目線を泳がせかけたところで、背中に添えられる手のひら。
「じゃあ、蛍さんのご期待に応えて。」
「き、期待してないもん…!」
「……はいはい。分かりましたから。」
心なしか、あやすように言われた。
「…何が分かったの?」
「蛍さんはやらしいこと考えてなかったんですよね。そう受け取りますから。
だから……僕の期待を叶えてもいいですか?」
「……!!///」
「僕のやらしい期待を、です。」
そう言った宗次郎の瞳には熱い兆しが窺い知れて。
何も言えず、そのまま身を寄せられた。
こぼれ桜
(こぼれる欲求)