第14章 ありったけの好きを伝えて
「言ってみてください、蛍さん。」
「…で、では…」
まさかまさか、こんな羽目になるなんて。
蛍は内心穏やかではなかったけれど、たしかにこんな部屋にいつまでもいるわけにはいかない。
けれど───
「…す、す…!」
ただ二文字を言えばいいだけ。
それにこれは……宗次郎に自分の気持ちを伝えるわけではないんだから。簡単、簡単───
「す……!」
「……」
気のせいか、宗次郎がこちらを真剣に見ているような。
…そんなことを思ってしまうと、すぐそこまで出かかったあと一文字がなかなか出てこない。
だったらそうだ!宗次郎の方を見ずに…!
「すっ!好きで…」
『相手の目を見て』
必死に張り紙に視線を向け、宗次郎の姿が視界に入らないようにそちらに二三歩歩み寄ってみたのだけれど。
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』の前に小さな文字でそう書いてあった。
(そ、宗次郎の目を見て…!?//)
「あ、なるほど。そういうことですか。」
「ひゃっ!?」
後ろから、頭の脇からそう囁かれてびっくりして振り向く。いつの間にか私の肩越しに張り紙を眺めていた宗次郎。
優しく、にこにこと微笑まれた。
思わず固まってしまい、目を見開いて見つめるけど、宗次郎の方は何も動じることはなく。
──だけど、微笑んで細くなっていた目をすっと開いたかと思うと、今度はまっすぐに見つめられる。
「だからさっきは駄目だったんですね。」
「…そ、そうみたい、だね…」
気のせいかな…距離が、顔が、近……
「じゃあ…もう一回。」
「え?」
向かい合わせにされ、両肩にそっと手を置かれる。
「え、え…?//」
いつになく真剣な眼差し。
「蛍さん。」
「は、はい…っ?」
──こ、これって…顔見ながら…!?//