第14章 ありったけの好きを伝えて
※付き合っていない二人
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』
「好きです。」
「……!!??」
『どちらかが好きと言わないと出られない部屋』という文字が書かれた張り紙。
その文字を見据えたまま、表情一つどころか声色一つすら変えずに穏やかに呟いた隣の彼を信じられないという表情で蛍は見つめた。
澄ました横顔は端整なんだけれど、そういう問題ではない。
「?何か?」
「……そ、そんなこと躊躇いもなく…!こっちはそ、その、心の準備が……!」
「かと言って、この部屋から出ないわけにはいきませんよね?」
ぱくぱくと口を開閉させて頬を少し赤らめる蛍の態度なぞどこ吹く風だったが、暫く経ってから宗次郎はあれ、と呟いた。
「おかしいなぁ、出られないですね。」
「そういえば…変だね。」
「どうしてだろう。ちゃんと好きって言ったのになぁ。」
“ちゃんと好きって言ったのになぁ。”
蛍は内心その言葉に動揺を重ねていた。
意志とは裏腹に跳ね上がってしまう胸の鼓動にやや焦りを感じるけれど、ある種の嬉しさも噛み締めてしまう。
(まるで本当に宗次郎から告白されたみたいで…//)
蛍の動揺なんて全く知らないのだろう、首を傾げていた宗次郎は何かを思いついたかのように「あ」と声を漏らした。
「そうだ。蛍さんが言ってみてくださいよ。」
「え!?」
「実行したつもりですけど、もしかして何かが違ったのかもしれません。」
「それは…一理ある、けど…」
(ある、けど……っ!わ、私も言うの…!?宗次郎に、す、好きって……)
恥ずかしい、出来れば言いたくない…
縋るような目で宗次郎の眼差しを見つめたけれど、提案を翻すことなどないまま、無邪気な笑顔を向けられるだけだった。