第13章 je t'aime à la folie
「わっ。」
「お疲れ様、蛍さん。こうすると一日の疲れが和らぐって言うでしょ?」
「う、うん…(そ、その、どうしよう…どんな顔したら、)」
「…あとは、蛍さんといちゃいちゃしたいからなんですけどね。」
ふふ、と溢れる彼の声。
暖かい。心地よい。
──彼の暖かさに絆されるように、とうとう耐えきれなくなってそっと呟きを放つ。
「……宗次郎、実はチョコ用意できなかった…ごめんね。」
「え?…やだなぁ、それで余計に元気なかったんですか?蛍さんらしいや。」
髪を優しく撫でる指。
深く抱きしめられ、そして少し距離を空けられる。
相対して目と目を合わされ、見つめられたかと思うと。
「…?」
「蛍さん、はい、これ。僕から。」
「えっ!?…チョコレート?」
「…蛍さんを好きな気持ちです。」
笑顔で差し出された、ベロア調のリボンのかかった箱。びっくりしてしまって思わず声をひっくり返してしまうと、頭を撫でられた。
「外国じゃ、関係ないそうですよ?男からだとか女からだとか…」
「…ありがとう、嬉しい…!」
──でも、私は用意してないのに申し訳ないな、僅かに芽生えてしまった想いをすぐに察したのか目くるめく放たれる言葉。
「はい、ちゃんと見て。はい。僕の気持ち。ちゃんと受け取って。」
「は、はい…!」
「…はい、よし。いいですよ。」
蛍さん、よくできました、と微笑まれて。そして。
「…でも僕も食べたいんですよ、食事の後に一緒に食べていいですか?」
「…実は食べたいもの選んだんでしょ?」
「あはは、わかりました?でもちゃんと、蛍さんも好きそうなものですから。安心してください。」
朗らかな、悪びれない言葉に思わず笑顔を浮かべて笑うと、もう一度引き寄せられて。
そうして耳元で囁かれる。愛の誓いの日、ともいうみたいですね、という甘い声。
「あとで、嫌ってくらい言いますから覚悟してくださいね?」
je t'aime à la folie
(狂おしいほど愛してる。)
バレンタインデーのお話でした。