第12章 閉じておいた夢が芽吹くまで
落ち着かせるように蛍さんの両肩にそっと手を乗せると、一瞬震えはしたけど硬直したように大人しくなってこちらを恐る恐る見上げる。
「宗次郎…?」
──まっすぐ視線を向ける。
「…逃がしませんよ、ずっと蛍さんのこと好きだったんですから。」
「え。」
「好きでは収まらないくらい、あなたのことをずっと想ってます。あなたのことだけを。」
「…!」
驚いて見開いた瞳。思わずその仕草に笑みをこぼす。可愛いなぁ。
「宗次郎、本当に…?」
信じられない、と呟いた彼女の顔は“信じたい”と言いたげにこちらを見上げていた。
「本当です…一緒にいる時間がほしくてお話ししてたんですよ。あなたに、少しずつでも近付きたかった。少しずつでも好きになってもらいたかったんです。」
「うそ…」
「…何の下心もなく、蛍さんに接していたと思ってましたか?」
「……うん。」
躊躇いがちに、こくこく、と首を縦にする蛍さんを笑顔で見守る。
…言いながら、さすがにこちらも恥ずかしくなってくる。
けれど──
今まで蛍さんを待っていたつもりだったけれど、いつの間にか…そう、いつからだったのか。実は蛍さんを待たせてしまっていた。その事実が僕を駆り立てる。
蛍さんはまだぎこちないけれど、頬を赤らめて柔らかな笑顔を浮かべて。やがて、“そっか”と嬉しそうに笑った。
「…お菓子がなくても蛍さんといたいってことです。蛍さんはお茶菓子がないと駄目ですか?」
恐らく伝わっているとは思う。
けれど冗談めかして笑いながら問いかけると、蛍さんは恥ずかしそうにまた笑った。
「お菓子なんてなくても宗次郎が好きです…!」
互いに顔を寄せて笑い合った。
閉じておいた夢が芽吹くまで
(そっか、私を待ってくれてたんだね。私も実はずっと宗次郎のこと好きだった。)
(…いつから?最近でしょう?)
(……ずっと前から。宗次郎の下についてから間もなかったと思う。)
(…ほぼ同じ時期からだったみたいですね。)
(え?)