第12章 閉じておいた夢が芽吹くまで
うっかり…そう、うっかりだった。
宗次郎は一応、私の上司で。けれど私と同年代の宗次郎は、以外となんでも話を聞いてくれる存在でもあった。
──実にあっけらかんとしてるので、聞いた話をすぐ忘れるようで「ああ、そんなこともありましたよね」と言われることも多かったけど、私にとってはさして問題ではなかった。
そんな調子の間柄だったので、顔を合わせれば世間話やお菓子の情報交換やお茶をするばかりだった。
その時も、二人きりで他愛ない時間を過ごしていたんだけど。なぜか、つい。
「宗次郎のこと好き。」
──本当はずっと、この先もずっと、宗次郎には言わないでしまっておくはずの想いだった。
はっと我に返り、慌てて取り繕うとしたけれど。
「蛍さん…僕のこと好きなんですか…?」
ぱちぱち、と瞬きをしながら、呼吸を忘れたかのようにこちらにまっすぐな視線を向けた宗次郎。
笑みはなくて、ただただ驚いてしまっている──そんな表情だった。
その宗次郎の顔が忘れられない。
(あ、やっぱり私は、この人の心の中にはいないんだ。)
そう感じたけれど。
自然と笑顔を作りながら、
「そうそう好きなの。好き、大好き。宗次郎は優しいし、お茶菓子美味しいの教えてくれるし。」
好きを連呼することで打ち消そうと試みた。
言葉に自分の想いは重ねないようにしながら。だって、みっともない。
「今更だけど、“宗次郎話しやすいし、好き”って思ったの。」
「そうなんですか。」
「うん。」
内心、宗次郎はやれやれと溜め息をついた。
──にこにこと告げてくる蛍さん。
とっても可愛いんですけど……いや、蛍さんは可愛い人なんだから。何も悪くない。仕方ない。でも。
(…早く僕のこと好きになってくれればいいのにな。)
まだもう少し時間がかかりそうだと思っていた。
それがまさか、いきなり好きと告げられたためびっくりしてしまった。けれど…僕が蛍さんに抱いてる“好き”とは違ったみたい。