第11章 恋の端っこを摘まみながら
「蛍の髪、綺麗なのにな。」
「え、えっ?」
「柔らかくてさらさらしてて。」
「そ、そっかな…?」
「なのに寝相が悪いせいでこんなになっちゃうなんて残念だなぁ。まあ、でも、」
「う…寝相なんとかします。」
「……僕は好き、ですよ。」
ひと息ついて、囁かれた言葉。
その響きに息が止まりそうになって、一瞬聞き返しそうになってしまった。けど、
(違う違う…髪の、話…!)
「蛍?」
「…ちょっと、嬉しいなぁって思った。」
“本当!?私も、大好き…”
出そうになった言葉を慌ててしまい込んだ。
でも、嬉しい気持ちはたしかにあったから、思わず笑顔になっちゃった。
…それくらい、いいよね?
そしてまた、触れていく宗次郎の指先に密かにドキドキしながら、この一瞬の幸せを噛み締めるように過ごしていった。
…今でも、十分幸せ。
もっともっと、近付きたいけど。
今はこれでとても幸せ。
──彼女の髪を梳きながら…
宗次郎は笑顔を浮かべながら、時折、寂しげに眉を緩めるのだった。
(…まだ、僕の気持ちに気付いてないかな。)
──半分、告白だったのかもしれない。
思わず口にしていた。
(けどまあ、もう少しかな。もう少し待ちますか♪)
寂しさ半分、けれどこのひと時を嬉しく思う気持ちも持ちながら。
淡い思いをほんの少し表情に滲ませながら、愛しい思いをそっと胸に刻み続けていった。
恋の端っこを摘まみながら
(寄せては離れ、寄せては離れ。でも、あと少し?)