第1章 伝わらない|スキルマスター
部屋に着き、ベッドに優しく下ろされる
「あの、もう私大丈夫なので帰ります。」
そう言って起き上がろうとすると制止され
思うように力が入らずそのままベッドに逆戻り
彼の顔を見ると
私が気持ちを伝えた時のように
困ったような悲しそうな顔をしていた
「…○○さん、うちのディエゴが
すみませんでした。
身体、痛かったでしょう…?」
「いえ、大丈夫です。
ディエゴは悪くないですよ。気にしないでください。」
… …何故か黙ってしまった、彼
好きで好きでやまなかった彼と2人きりでいるのに
今は、帰りたくて仕方ない
彼の困った顔を悲しそうな顔を
これ以上見たくない
そうさせる原因が私なら
私がいなければいい話だ
そうすれば、彼はこんな顔をせずに済む
私が体を起こしたと同時に
彼が口を開く
「もう…
私の名前は呼んでくれないのですか。」
○○さん、と悲しそうな瞳で
見つめてくる
彼の名前を呼んでしまえば、
好きという感情がまた出てきてしまう
それはもう だめなんだ
「私じゃなくても、他の方が呼んでくれますよ。」
ベッドから立って、ゆっくりと
歩を進めながら答えた
この部屋から出たら、もう本当にさよならだ。
彼とはこれきりだろうな、なんて考えながら
「… … 他の人じゃ、意味がないんです。
私は貴女に呼ばれたい。」
「何言ってるんですか。
そんな事言ってると本気にされますよ。
気をつけてくださいね。」
いつかの彼が私に言ったことを
真似て返した
はっ、と気づいた表情の後
暫く口を噤むマスター
「私は、○○さんにこんなにも
酷い事を言ってしまったんですね…。」
「今更遅いかもしれません、だけど
私は○○さんの事が好きです。
…貴女が来ないこの2ヶ月近くの間
貴女の事を考えていました。
私は○○さんと一線を超えてしまって
貴女をもしかしたらいつか
失う時があるかもしれないと
考えたら、怖気付いて
気持ちに応えられませんでした。
…でも気がついたんです。貴女が此処に来てくれず、
私を好きだという可愛らしい声も、
笑顔も感じられない事よりも大きな後悔はないと……。」
もし、よければお返事を頂けませんか?
と不安そうな瞳で私を見つめるマスター