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泡沫の恋【鬼滅の刃】

第2章 冨岡に陶酔した継子|冨岡


 首を垂れたまま、こくり、こくりとゆれ手の中の筆が滑り落ちるが、びくりと反応して机に落ちる前に筆を取り直す。たっぷりと墨を含んだ筆から、ぱっと墨が散り、紙の上に小さな染みをつくった。
 これで、五回目だ。

 昨晩は最近の任務の中では随分と長丁場となり、鬼を探し出せたのは結局丑三つ時も過ぎた頃合いだった。しかも情報と異なり、鬼は分散していくつか潜んでおり、全ての首を落とせたのは東の空が白けてきたころだった。そして、帰ろうと思った時、以前天笠が藤の花の家紋の家ででた食事がよかった、機会があればまたお世話になりたい、と言っていたのを思い出し、せっかくならばと、朝方まで移動し続けた結果、目的地に着いたのは大分日も高くなった頃だった。
 二人とも大した怪我もなく、帰還できたのはいいが、いかんせん眠気がひどい。

 天笠は部屋に入ってから任務の報告を書くのだといったものの、筆は進まずぼうっとしている様子であり、声をかければ爛々と目を光らせ思い出したように酔ったように饒舌になる。生真面目なのだがどうも抜けているので、しっかりと見ててやらねば。

「眠いなら、寝たらどうだ。」
 言った先から夢うつつをさまよっている。庭の樹は寂しい枝ぶりで、鱗雲が見えるような頃合いなのに、風だけは春のような陽気である。その中でゆらゆらと揺れている天笠は暖かな日差しの中まどろむ子猫のようである。
 あくびを噛みしめながら紙と筆に向かった天笠に声をかけるが、ふたたび筆が手から滑り落ち今度はそのまま取り落とし、紙の上に大きな染みを作った。
 これで六回目。

 猫といえば。以前町中を話しながら歩いている際、返事がなくなったがそのまま構わず話し続けてていたが、誰ト話シテイルノジャという烏の声が聞こえ大層驚いた。そして振り返るといつもの姿は見えず、誰もいなのに一人で話続けていたことに気付き、道に迷ったのかと戻って探してみれば、通りから外れた小道で小さく丸くなっている背中を見つけた。体でも悪いのかと思えば、猫と戯れていた。
 あの時はずいぶんと、誰にもいないのに1人で話してしまい、思えばある時からさまざまな人が俺の方を見ていており、注目を集めてしまったことに気づいて、顔が熱くなった。
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