第2章 #02
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布団に転がりながら、さっきまでの出来事を思い出す。
山下さんと釣りに行くってだけで、私にとってはずいぶん新しいチャレンジになるはずだったんだけど。
それ以上に非日常的で騒がしい世界味わっちゃったなあ。
「……」
仰向けに寝そべっていたのを、顔を枕に押し付けるようにしてうつ伏せになる。
楽しかった……のかも。
自分の好きなことをしてるとか、気心知れた友達が傍にいてっていう明らかに楽しいのとは違ったけど。
嫌なこともあったけど、あの騒がしい感じは今思うと案外嫌いじゃなかった。
心が軽くて。……海なんて見てなくても今は平気だった。
図らずも助けられちゃった感じだなあ。
……。
ゆっくり目を閉じれば、睡魔に誘われるままに私は意識を手放した。
目を覚ました時には部屋の中は薄暗くなっていた。夜ご飯ができてる頃かもしれない。
洗面所に向かった後に台所に行くと、昨日帰ってきた時みたいにおばあちゃんは台所で一人で料理をしていた。
流し台の上に設置された蛍光灯だけが眩しく光ってる。わたしは近くにあった壁のスイッチを押して台所全体の灯りをつけた。
お昼はすぐに寝てしまったから、朝ぶりのおばあちゃん。
「おばあちゃん」
「おかえりぃ。楽しかったかい?」
「うん、凄く!お昼ご飯は山下さん家で作って貰ったよ、あと近所の皆がご飯とおかず分けてくれた」
「本当……?後でわたしもお礼言いに行かないとねぇ」
にこりと笑って、おばあちゃんはそのまま料理を続ける。
すぐ横にある居間に移りながら、自分の口から出てきた言葉にちょっとだけ驚いていた。
凄く……か。自然とおばあちゃんに伝えると、本当に思ってたことが出てくるんだろうな。私はそう思ってたのか。
テレビをつけて、ボーッとそれを眺めた。久しぶりに見たバラエティ番組は笑いに包まれてたけど、話が頭に入ってこなかった。
コトッ……。
小さな音を立てて、おばあちゃんが机の上にご飯を並べ始めた。
焼き鮭と大きなスライストマト、美味しそうな煮物。人参やこんにゃく、ゴボウなんかが入ってる。
「海苔いる?」
「あ、うん」
台所に白ご飯用の味付け海苔を取りに行ってくれる。何でもかんでもしてもらってばかり。
一ヶ月もこっちにいるのにお世話になってばっかじゃ駄目だよね……。