第16章 重なる想い
「信玄様は……。信玄様は信長様と戦って、国を取り戻すつもりなんですか?」
信玄様が信長様と戦う意味はこれしかないんだろう
「そうだ。あの男が俺から奪って踏みつけているものを、取り返して元通りにする」
迷いなく答える信玄様に、切なさがこみ上げた。
「……信長様とそんなに大きな戦をするようになったのは何か原因が?」
少しの沈黙ののちに、信玄様は口を開く。
「信長とは考え方の違いこそあれ、すぐに反目し合うようになったわけじゃない。信長の政の才は認めてたし、まあまあ友好な関係も築いてた。–––ある時までは」
「ある時って……?」
信玄様の瞳に、暗い過去の影が落ちた。
「信長は、自分に敵対する武将を匿った寺を跡形なく焼き払ったんだ。
敵国の城を攻めるならともかく、人々の拠り所になる寺を焼くのは許せなかった。俺は信長に対して宣戦布告し、奴と同盟関係にある徳川領を攻めた」
前に家康が、言ってた戦のことだよね…
安土にいた頃聞いた話が、脳裏をよぎる。
「でも、戦の最中、信玄様は突然姿を消して……。だから、病死したって言われてたんですよね?」
「……ああ。情けないことに、昔からの病をこじらせて倒れた。その時まで、周りにはひた隠しにしてきたんだがな」
……病にかかったっていうのは、本当だったんだ