第16章 重なる想い
月に照らされた水面に、小さな影が不規則に動く
「魚がいるな」
透き通る水のなかを
二匹の魚が戯れるように泳いでいる
「…本当ですね」
離れたり近づいたりしながら泳ぐ姿は、まるで自分と信玄様のように見えた
そういえば…信玄様のいた甲斐の国も魚がとれた…って言ってたっけ
前に話してくれた、故郷の話を思い出す
「…信玄様の故郷の河にも魚がいたって言ってましたね」
「…そんな話したか?よく覚えてるな」
意外そうな信玄様に
「忘れたりしないですよ」
あなたのこと忘れたりしない…
そう答えると
「いいのか?自惚れるぞ」
いつものように、笑う信玄様
その言葉をいつものように笑って否定することはもう出来なくなっていた
別れが悲しくなるから、恋をしちゃダメって分かってる
だけど、あなたのことをもっと知りたいと思ってしまう
あなたの記憶がいつか私を苦しめたとしても…