第16章 重なる想い
その様子を幸村が見つめる
そこへ広間の端で酒を酌み交わしていた、佐助と謙信がやってきた
「あの二人、戦で何かあったのかな?」
「わかんねー」
佐助の言葉に幸村が呟く
謙信は手酌で注いだ酒をグイッと飲み干した
「謙信様。なぜ先程、織田軍の話をしたのですか…。謙信様なら、織田軍の動向くらい把握してますよね」
さらに手酌で酒を注ぐ謙信に佐助が聞く
謙信はチラリと佐助に目をやるが、何も言わず盃を煽る
「乃々の…ためですか?」
「俺はただ、あの女が知っておいた方がいいと思っただけだ。敵同士で深い仲になるということは、必ず痛みと犠牲を生みだすのだとな」
幸村の問いに謙信の瞳に微か哀しみの色が揺れる…
しかしそれは謙信の長い睫毛ですぐに隠された…
「…今日は、謙信様の気が済むまで飲みましょうか…」
謙信の気持ちを察したように、佐助が申し出ると
「当然だ」
謙信が無造作に差し出した徳利を、佐助と幸村は盃で受けて飲み干した。