第2章 旅立ち
「やだ、私だけだったの?ここに連れて来られた時から私、あなたの妻になったと思ってたのに」
コロコロと笑う松代に、松蔵もつられて笑う。
二人の結婚に集落の仲間たちは、大いに喜んだ。二人を座らせ、仲間たちだけで宴の準備をする。
「私も手伝うわ」
「いいから、いいから!主役は座ってて!」
ピクシーと駆け落ちしてきた一つ目巨人が、そのほとんどを用意してくれた。
「俺たちは子供ができなくても、いいんだ。一緒にいられれば、それで幸せだ」
一つ目巨人とピクシーの夫婦ははた目からすれば、恐竜と蟻くらいの体格差がある。
「彼、グリズリーに襲われていた私を助けてくれたの。この大きな手で、優しく包んでくれるのよ。私はどんなに変化してもこの大きさは変わらないから、そう言ったのに…。私がいいって言ってくれて…。嬉しかったの」
「俺のこの大きさなら、彼女がどこに乗っていても邪魔にならないから、ずっと離れずにいられる」
二人は本当に幸せそうに笑った。
女オークとコボルトの夫婦もいた。
「僕、強くて優しい女が好きなんだ。彼女はまさに、理想の女性だよ」
「んふ。あなたったら」
「皆はオークを醜いって言うけど僕に言わせれば、そんなこと言う奴の心の方が、醜いと思うんだ」
夜、宴の最初はしめやかに行われた。誓いの口付けを交わす松蔵と松代。とたんに周りはにぎやかになる。
「よっ、ご両人!!」
「俺たちも今ここで、夫婦になるぜ!」
「よし、一緒にやろう!今日は皆が主役だ!」
すでに結婚していた者も、この場で改めて式を挙げた。
「ふふっ」
「どうした、松代?」
「幸せだなぁと思って。だって、こんなにたくさんの仲間たちと式を挙げられるなんて普通、ないわよ」
「そうだな。全く、幸せなことだ」
「皆が皆を祝福し合うって、素敵なことね」
「ああ」
「ふふっ。私、ここに来てあなたに会えて、よかった」
「松代……」
松蔵は松代を抱き寄せ、口付けた。
「あまりかわいいことを、言ってくれるな。理性がきかなくなる」
松代を抱き締めるその手は、震えていた。その背中を抱き締める松代。
もう、限界だった。松蔵は松代を抱き上げ、家に入るとベッドに横たわらせた。
「お前が煽ったんだからな」
「うん。いいよ、好きにして」
何かの糸が切れた後のことを、松蔵は覚えていない。