第9章 自我なきゴブリン族
レッドアイ族の街を去って、どれほど経っただろうか。おそ松たちはずっと野宿暮らししていた。
「あーもう!体が固まっちゃうよー」
「身体中葉っぱだらけだね」
「たまにはシャワーを浴びたいぜ」
「カラ松はホテルに住んでたからね」
「結構歩いてるけど、街も村も見えて来ないしなぁ」
「ふかふかベッドで寝たいよね」
愚痴を言いながら歩くと、やがて高い塀が見えた。行く手を阻むように、ずっと続いている。
「何だぁ?!」
近づいて見ると、その異常なほどの高さに驚く。数十メートルはあろうかという高さと長さ。その向こうに行かなければ、先に進むことができないと思わされる。
「ちょっと見てくるよ」
チョロ松が偵察に行った。
「………長くないか?」
「確かに!」
「おーい、ライジングー!」
やがて向こうから、ひぃひぃ言いながら帰ってきた。
「はぁ、はぁ、ひぃー。駄目だ!入り口がわからない!」
どういうことかと聞くと、この高い塀がどこまでも続いていて、入り口がないのだと言う。
「俺が行って来よう」
カラ松が偵察に行って、かなり経ってから帰ってきた。
「カラ松、見えた?」
「いや、俺にもわからん」
だがこんなところで足止めを食らうわけにはいかない。
「どうすりゃいいんだよ……」
おそ松がため息まじりに、塀に手をついた。いや、つこうとした。
「ぉわああああ!!」
ついたはずの手は空を切り、みごとに倒れた。
「いててて…」
「大丈夫?って、入り口発見伝!!」
なんと、ないと思っていた入り口は、目の前にあった。だが全く分からなかった。
「目の錯覚を、うまく利用した作りだね」
「とにかく入らないと、進めないよ」
チョロ松に続いて一松が入る。
「……嫌な感じだ…。この場所、死んでる」
「何?廃墟ってこと?」
「誰かいる気配はあるけど、何かこう、空気が違う」
首を傾げるおそ松たち。中へ進むと機能していない噴水があった。
「噴水、出てないね」
「どういうことだろう?恐らく憩いの場になっていただろうに」
「だが確かに一松の言う通り、死んでいるな。この場所は」
「一松兄さんは誰かいるって言ってたけど、誰も歩いてないね」
十四松の言うように、まるでゴーストタウンかのように静まりかえっている。
その時。
ガシャンガシャン