第1章 幻想世界の言い伝え
とある街の大きな公園。ある場所のベンチには、いつも一人の女性が座っていた。
彼女の名前は松代。文学少女というわけでもない。彼女が読んでいるのは、モンスターに関する本だ。松代はその本を読むことで、モンスターの世界に入り込んでいた。中でも一番のお気に入りは
「はぁ…。ロック鳥、かっこいい!」
ロック鳥とは巨大な鷹に似た鳥で、大人の象を3匹は軽く運び、その羽ばたきは竜巻を起こすという。
「ロック鳥に会えたら、どんなに嬉しいだろう!」
そう言った瞬間、本が光を放った。
「ええっ?!」
光は松代を包み込み、本の中へと引き込んだ。
気づくとそこは、いつもの公園ではなく、どこまでも続く草原だった。松代の膝下まである見たこともない、背の高い草。
「ここは…?」
辺りには民家はおろか、人の姿すらない。電信柱もなければ、車も走っていない。
どうしたものかと考えあぐねていると、その草原に紛れて虎が現れた。いや、虎ではない。もっと大きい。その牙は長く、鋭い。
「サーベルタイガーだわ!えっ、じゃあここは、幻想世界?!」
喜ぶ暇はなかった。サーベルタイガーはジリジリと松代に近づいてくる。その松代とサーベルタイガーを、大きな影が覆った。次の瞬間、サーベルタイガーが巨大な鳥の足に捕らえられ、遠くに放り投げられた。
「ロック鳥!!」
松代は胸をときめかせてロック鳥を見つめた。その勇壮な姿に心奪われていたロック鳥が今、目の前にいる。ロック鳥もまた、松代をじっと見ていた。と、ロック鳥の体が光ったかと思うと、人間の姿になった。
「大丈夫だったか?」
「ええ、おかげさまで。助けてくれて、ありがとう」
「いや、ここは俺たちロック鳥の狩り場だからな。他の獣系種族は追い出してるんだ。それよりお前、見たこともない種族だな」
「私は、人間よ」
するとロック鳥は驚いた。
「何っ?!人間だと?!そんな馬鹿な!人間がこの世界に来れる訳がない!」
「私にも、わからないの。どうやってここに来たのか」
「とにかく長老にどうするべきか、ご指示を仰ごう。人間!」
「松代よ」
「……松代か。俺は松蔵だ。俺の背中に乗れ」
松蔵は再びロック鳥の姿になり、松代が乗りやすいように伏せ、片方の羽を伸ばして松代に向けた。
「ありがとう」
松代は羽から背中へとよじ登り、しっかり掴まった。