第8章 夏の華 ―ハイジside―
ユキが公認記録を出した記録会の日。
あの場所に舞ちゃんが現れた時、この二人に何かしらの進展があったことに気づいた。
醸し出す雰囲気やユキを見つめる舞ちゃんの眼差しは、今までとは明らかに違ったのだ。
ずっと見てきたからこそ、わかる。
ユキが俺を呼び止めたのも、舞ちゃんを心配してのことだろう。
大丈夫だ。
ユキの心配しているようなことは何も起こらない。
雨に濡れているかもしれない舞ちゃんを、迎えに行くだけ。
このメンバーの中で免許は俺しか持っていないんだ。
仕方ないだろう?
「すぐ帰ってくる。ついでに何かいるか?」
「いや。頼むから安全運転しろよ。舞を乗せるんだから」
「……」
ああ…。
余計なことを考えていたのは、俺の方か。
何だか肩透かしを食らった気分だ。
「わかったよ。法定速度で走る」
「当たり前だ。あと脇見運転もするなよ?」
「しないよ」
「…頼むな」
「はいはい」
心配性のユキを置いて、車に乗り込んだ。
エンジンをかけ、コンビニ方面に向けて車を走らせる。
雨足が強い。ワイパーをマックスで稼働させなければ前方を見渡すのは困難だ。
遠目にコンビニの看板が見える。
ここに来るまで舞ちゃんとはすれ違わなかった。
店内で雨宿りでもしているのか思い、駐車場に車を停め俺も中へ入る。
「あれ?ハイジくん?」
先に気づいてくれたのは彼女の方。
振り返ったところには、びしょ濡れの姿で俺をポカンと見つめる舞ちゃんがいた。
「あーあ、随分濡れちゃったなぁ…!」
「コンビニに向かってる途中で急に降り始めて。慌てて走ったんだけど、こんなに濡れちゃった」
「とりあえず、車行こう」
急いで車内に入り、暖房を付けた。
この場所は山の中だけあって、日が傾き始めると一気に気温が下がるのだ。
雨も加わって今日は更に冷える。