第17章 大手町にて
もう1人、また1人と、後に続くように選手がゴールラインを踏んでいく。
ハイジくん―――!
その姿が現れるまで、ひたすら祈りながら名前を唱え続ける。
そんな中、ひときわ大きな喝采と拍手が湧き起こった。
『寛政大です!5番目に大手町に駆け込んで来たのは、なんと初出場、寛政大学!』
黒いユニフォームの選手が、走ってくる。
音響に乗ってこだまするアナウンサーの実況で、決して私の見間違いや幻ではないのだとわかった。
遂にハイジくんが、大手町に辿り着いたのだ。
「ハイジーっ!!ここまで来い!!」
「ハイジさぁーぁあん!!」
「ハイジくーんっ!!あと少しーっ!!」
激励というよりは、もはや咆哮や悲鳴のようだ。
みんなが湧き上がる感情のままハイジくんへと想いを送る。
本当の本当に、これで最後。
こんなにも私の世界を変えたものは、初めてだった。
サーブ、ドリブル、スパイク、スマッシュ、シュート、ホームラン―――そのどれもを持たない、二本の脚だけで競うスポーツ。
選手が生み出す、孤独で、過酷で、それでいてこれ以上ないほどの眩しい世界を、みんなと一緒に過ごすことで追体験させてもらえた。
ずっとそばにいたからこそ、確かなことがある。
走っている人は、誰だって美しい。
ゴールに向かって風のように突き進むその姿は、いつでも私の目の前にまばゆい光を放つのだ。
今まさにこちらに向かって走ってくる、ハイジくんのように―――。
『たった10人の挑戦者が5番目のフィニッシュという、空前の快挙。
1区では最下位。その後順調に順位を上げ、辿り着いた5区。まさかの失速で再び後退。今日のスタートは一斉繰り上げスタートでありました』
あと、15m。
カケルくんが大きく手を振った。
ハイジくんを待ち受けるその表情は、今にも泣き出しそうに見える。
『そこから区間新を含む見事なチームワークで逆境を跳ね返した、まさに奇跡のチームです』